株式会社アドバンテスト様(マネジメント編)
マネジメントが率先垂範し
複数チームのベクトルを合わせ、たゆまぬ変革に取り組む
導入のポイント
- グローバル拠点との共通言語化を目指してSAFe®を導入
- ハードウェア開発の部門長の協力を得て組織間のサイロを解消
- テレワークや兼務の負荷はアジャイルコーチを配置して工夫
インタビュイー

SoCテスト事業本部
T2000プロダクトユニット
副統括部長 荒木洋 氏

SoCテスト事業本部
T2000プロダクトユニット
第2ソフトウェア部部長 石川慎一 氏
導入の背景
組織全体で変革に取り組む
株式会社アドバンテストは、半導体の量産テスト用システムの開発・販売をワンストップ、且つワールドワイドに展開している半導体製造装置メーカーだ。『先端技術を先端で支える』を経営理念に掲げ、技荷の進化とビジネスの変化が極めて早い半導体製造業界のイノベーションをテストで支える。
SAFe®導入を推進する荒木氏は、導入前の課題を次のように振り返る。「我々の部署は、SoCテスト・システム向けのソフトウェア開発の一翼を担っています。約10チームで構成されており、長い間、ウォーターフォールモデルによるソフトウェア開発を行ってきました。約6年前からスクラム手法を取り入れるチームが徐々に増えてきたのですが、やり方はチームごとに異なっていました。そのため、組織全体で取り組める開発手法の導入が必要と考えていました。」
グローバル拠点との共通言語に
SAFe®を採用した理由のひとつは、グローバルで約2万社の導入実績があることだ。世界中の多くの企業の実践と成果に裏付けされたエンタープライズアジャイルのデファクトスタンダードである。
次に、現地パートナーによるローカライズされたトレーニングやコンサルティングがあることだ。「TDCソフトは、SAFe®の公式コンテンツに加え、カスタマイズしたワークショップやトレーニングを提供していました」(石川氏)。SAFe®は教育コンテンツが充実したフレームワークだが、企業の状況に応じて支援内容を柔軟にカスタマイズし、丁寧に伴走してくれるパートナー選びがポイントとなる。
最大の決め手は、ドイツにある開発拠点とのソフトウェア開発手法の共通言語化ができることだ。しかしながら、一足飛びにはいかない。「第一歩として、チーム間のビジョンの共有と見える化が重要と考えました。それには、SAFe®の大きな特長である、『Plプランニング』と呼ばれる、一堂に会して行う計画会議が有効と考え
ました」(荒木氏)。
導入の効果

完璧を目指さずスモールスタート
2022年4月、LACEを立ち上げ、約50人体制で開発する製品を対象にSAFe®導入を決めた。ARTを定義してチームを再編し、メンバー全員がSAFe®トレーニングを受講した。それらの事前準備をした上で、半年後、初めてのPlプランニングを開催した。
「Plプランニングまでやることが多く、本当に開催できるのか不安な時もありました。従来の組織が抱える課題も多く、それらにどう向き合うのか迷うことも多かったです。最初から完璧を目指さずスモールスタートを目指したことが良かったと思います」と、RTEの石川氏は当時を振り返る。
Plプランニングの振り返りでは、ポジティブな意見が多かった。次はこうしたい!という改善提案も出され、それをARTの全員で共有した。石川氏は、「SAFe®のPDCAサイクルの入り口に立てた実感がわいてきた」と笑顔を見せる。

ハードウェア開発の部門長の協力を得る
ARTを運営するにあたっては、自部門に加えてハードウェア開発のシニアマネージャーの協力を得た。組織を変革するには、関連組織の部門長レベルの強力なサポートが必要不可欠だ。
「すべてのチームが同じ目標に向かい、全員がお互いの状況を見えるようになりました。結果、積極的に協力し合う関係へと変化してきています。ハードウェア開発の協力を得やすくなったことはメンバー全員が実感しています」と、荒木氏は組織間のサイロ解消に期待を寄せる。

兼務の負荷はアジャイルコーチが解決
SAFe®導入は『インプリメンテーションロードマップ』に従ったが、アドバンテスト独自の工夫も凝らした。
「弊社ではテレワークが定着していたため、Plプランニングはリモート会議とオンラインのコミュニケーション環境を用意して開催しました。また、弊社の開発メンバーはスクラムマスターを兼務していることが多く、スクラムマスターの負担軽減と気軽な相談役としてアジャイルコーチを置きました。テレワークでチームの状況が見えにくいところは、アジャイルコーチが各チームに入ってサポートすることでフォローしています」(石川氏)。
Face to Faceで直接会わないことによる課題は、あまり感じていないという。
今後の展望

SAFe®を形骸化させない自律的なチーム
SAFe®がトップダウンのフレームワークとならないよう、チームが自律的に取り組むことを尊重している。
「Plプランニングの準備以外にも、キャパシティアロケーション(リソースの割り当て)やビルトインクオリティ(作り込み品質)についてチームで話し合ってもらうなど、チーム内の対話を増やしたことで、それぞれのチームの個性が出てきました。ARTの共通部分と各チームの責任を分けて取り組めていることが良かったと思います。これまで、組織の方針は部単位で策定していました。SAFe®導入により、製品に関わるART内すべての人の意識がまとまってきていると感じます。共通の目的に対する課題意識を持ち、従来の組織を超えて取り組む雰囲気があります」(石川氏)。
目に見えるビジネス成果を表出
SAFe®を導入する目的は企業によって様々である。しかし、日本企業がSAFe®導入を成功させビジネスアジリティを向上するには、関連する全ての人々がフレームワークの背景にある原理原則を理解し、自社の現状に合った最適解を常に考えながらステップバイステップで丁寧に取り組むことの大切さを、本事例は教えてくれる。
次のステップとしては、SAFe®を実践しながら開発効率の向上や品質の改善など、目に見える形でビジネス成果を上げることを目指す。そのためには、周辺部門を巻き込み、さらにARTを成熟させていくことがポイントになる。荒木氏は、「より多くのステークホルダーを巻き込み、ビジネスアジリティに貢献できるよう、たゆまぬ変革を推進していきたい」と、組織全体でさらなる変革に取り組むことを強調する。

SAFe®用語
- Plプランニング
- ARTの全員が参加する計画会議。
- LACE
- リーンアジャイルセンターオブエクセレンスの略。変革推進チーム。
- ART
- アジャイルリリーストレインの略。複数のアジャイルチームで構成された50~125人のチーム。
- RTE
- リリーストレインエンジニアの略。ART全体の推進役。
- インプリメンテーションロードマップ
- SAFe®実装のロードマップ。
- スクラムマスター
- 又はチームコーチ。アジャイルチームのサーバントリーダー兼コーチ。
- アジャイルコーチ
- アジャイルに関する豊富な知識と経験を活用してチームを支援する人。
導入企業情報
株式会社アドバンテスト(ADVANTEST CORPORATION)
アドバンテストは、世界最高水準の製品・ソリューション開発力とグローバルなチームワークによる技術サポートカの強みで、常に時代の最先端をリードし続けています。
- 設立
- 1954年(昭和29年) 12月
- 所在地
- 東京都千代田区丸の内1丁目6番2 新丸の内センタービルディング
- ホームページ
- https://www.advantest.com/
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本記事は2023年10月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
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SAFe®(Scaled Agile Framework®)は、米国Scaled Agile, Inc.の米国およびその他の国における登録商標です。
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記載されている会社名およびサービス名は、各社の商標または登録商標です。
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TDCソフトは、Scaled Agile, Inc. のパートナー制度 Scaled Agile Partner Program の Scaled Agile Gold Transformation Partnerです。