一DXを目指して研究開発の生産性向上にチャレンジ
SAFeRを活用したエンタープライズアジャイル開発の実践により
製造業の研究開発における透明性を担保し開発加速化を実現

導入のポイント

  • 研究開発におけるソフトウェア開発促進のためアジャイル開発手法を導入
  • TDCソフトのトレーニングを受講した30名以上の研究者がアジャイル変革リーダーとして推進
  • 研究開発とビジネスの距離を縮め、製造・事業への展開にも期待

インタビュイー

JSR株式会社 社長室 主事
岡崎正博 氏

導入の背景

研究開発のDXを目指して

JSR株式会社は、MaterialsInnovationを企業理念に掲げる素材メーカーであり、デジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として研究開発にデジタル技術を活用している。

先行投資である研究開発において重視することは、事業戦略との一貫性ある研究開発テーマを設定し、コストをうまくコントロールしながら成果を出すことだ。しかし、SAFe®、アジャイル開発導入前は、一部に事業戦略と方向性や目的が一致しない研究開発テーマを設定、実施するなど、期間やコストも一部不明瞭なまま運用している実態があったという。

「研究開発は限られたコストの中で行うべきで、投入した予算に対して、しかるべきアウトプットを得なければなりません。つまり、透明性の担保が非常に重要になると考えました。その透明性を担保するために、アジャイル開発では、2週間という短期で小さなアウトプットを繰り返し得ていく。透明性をもって進捗管理ができ、明らかに事業部に対してメリットがる。アジャイル開発は、研究開発におけるソフトウェア開発に最も適していると考えました」(岡崎氏)。

全くの無知からアジャイル開発に取り組む

しかし、研究開発の誰もがアジャイル開発を知らなかった。そんな折、TDCソフトと出会う。「北米にある弊社グループ会社のデジタル担当がスクラム開発を勧めてきたのですが、私を含め、日本の研究者は全く用語がわかりません。言語や時差、考え方など障壁も多く、何から手をつけていいかわからなかった。TDCソフトは、我々の研究開発におけるソフトウェア開発の悩みや現場について、非常に真摯に、かつ的確に提案をしてくれました。その時紹介されたのが、アジャイル開発手法ひとつであるSAFe®です」(岡崎氏)。

SAFe® (Scaled Agile Framework)は、社会・顧客ニーズの多様化により、大規模化とスピードの両立を求められるITの開発現場と経営・事業をつなげ、企業の変革とビジネスの加速化を実現する、エンタープライズ向けのアジャイル開発・ビジネスフレームワークだ。

「現在は、世の中の変化の速度が速い時代です。これまでのやり方で研究開発をしていては、時代の流れが急激に変わった時に追いつけません。SAFe®、アジャイル開発なら、社会や顧客に変化が起こった場合に素早くやり直しが利き、かつ失敗が少ない。これが最大のメリットと判断し、導入を決定しました」(岡崎氏)。

導入の効果

トレーニングでアジャイルのエッセンスを習得

これまでは、ウォーターフォール型開発を採用しており、短期間で開発を繰り返すアジャイルの概念に馴染みがなかった。そのため、SAFe®、アジャイル開発について知識を得るために、T D Cソフトのトレーニングを受講することから始め、アジャイルのエッセンスを少しずつ取り入れながら導入を進めている。

初めは、社内から非常に多くの反感があったという。しかし、トレーニングを通して知識を得て、実際に開発に適用し、うまく進むようになってくるとメリットを感じるようになった。現在では、非常に満足している結果が得られているとのことだ。

事業戦略と連携した研究開発が可能に

岡崎氏は、SAFe®、アジャイル開発導入による変化が3つあるという。

  1. 会社の方針や事業部の戦略に沿った研究開発の実現
  2. 研究開発期間やコストの透明性を担保
  3. 研究開発における進捗、エ程、責任の見える化

これらの変化により、「2週間のスプリントごとに、進捗しているのか、していなかったらどこに原因があるのか、それらがわかるようになり、開発が滞ることがなくなりました。さらに、会社の経営陣や事業部門のトップヘは、今ここまで開発が進んでいて、こういうバリューを届けられると定期的に報告する場を設けました。このような活動により、研究開発で何をやっているのかが明らかになり、彼らとの信頼関係も生まれました」(岡崎氏)という効果があった。

役割が明確になりチームコミュニケーションが円滑化

複数拠点との連携もスムーズになったと岡崎氏は言う。「アジャイル開発では、メンバーの役
割が明確にあります。例えば、スクラムマスターは、チーム内外の障壁を取り払います。このような役割やロールを社員が覚えたことで、どういう打ち合わせを行うと良いか、どういう接点を持ったら、より円滑にコミュニケーションが進むかなど、個人の意識が変わりました。弊社は、世界中に工場や事業所がありますが、コミュニケーションが円滑化し、研究開発の速度が飛躍的に向上しました」と、チームメンバーのマインドセットの変化も実感している。

研究者からアジャイル変革リーダーへ

SAFe®、アジャイル開発導入のために組織やチームメンバーの変更は行っておらず、同じ組織・メンバーで運用している。現在、トレーニングを受講した30名以上が、変革リーダーとしてSAFe®、アジャイル開発に取り組む。

今後の展望

工場の保守点検業務をアジャイル化

現在、SAFe®、アジャイル開発を研究開発で実施しているが、今後は、製造や事業の現場にも導入したいという。

「弊社は素材メーカーですので、研究開発能力を強化することは他社に対する優位性の確保につながります。しかしながら、製造現場の効率化や、営業・事業の体力強化など、顧客に新しい価値を届けるところでもデジタル技術を活用し、利益をより増幅させるといった取り組みが必要と考えています」(岡崎氏)。

すでに、工場の保守点検の現場では、デジタル技術を活用した業務改革の取り組みが始まっている。「石油化学事業は、創業から60年以上を迎えました。60年経つと、工場プラントの配管にヒビが入ったり、腐食が進んだり、色々な不都合が起こります。しかし、広いプラントですので、人の目で亀裂や腐食を見るには限界があります。これを、デジタル技術の活用により、保全の効率化に取り組んでいます。このような業務支援システムの開発にSAFe®、アジャイル開発を導入したい」(岡崎氏)という。

顧客価値思考で変化に即応できる組織へ

加えて、製造業の根幹となるサプライチェーンへの導入も視野に入れている。

「製造現場では、どこよりも安く、確実に、納期通りにお客様に届ける、これが一番重要なポイントです。大規模なサプライチェーンのシステム開発にも、SAFe®、アジャイル開発を適用し、生産性を上げ、サプライチェーンマネジメントを的確に行う。この活動によって、お客様への寄り添い方が向上し、コストダウン並びに信頼感をいっそう高めることができる」(岡崎氏)と期待する。

しかし、課題もあるという。「SAFe®、アジャイル開発は、変化を許容し、不確定なものを行い続けるフレームワークです。つまり、マネジメントは、これまでの考え方を変えなければなりません」(岡崎氏)と、マネジメントの変革を今後の課題とした。

だが、次のように付け加える。「弊社は、お客様に寄り添い、お客様の信頼に応え、お客様の視点に立って事業を行っていく、これを一番重要なこととしています。これは、SAFe®、アジャイル開発と全く同じ考え方です。今はまだ、研究開発にのみ導入していますが、いずれは、製造、事業の現場にも導入、浸透できると確信しています」(岡崎氏)。

顧客の価値を中心に置き、開発とビジネスの距離を縮めて企業活動を行うことで、変化し続ける顧客ニーズや市場の動向に柔軟に対応でき、俊敏性を発揮できる。同社は、それを体系化したSAFe®のエッセンスをうまく取り入れながら、アジャイル開発を実践しており、小さな成功からステップを踏んで大きく育てようとしている。本事例は、ビジネス変革を効果的に推進したい多くの企業のヒントとなるだろう。

導入企業情報

JSR株式会社(JSR Corporation)

JSRは1957年の創立以来、日本でタイヤ用合成ゴムを供給し、化学産業にイノベーションをもたらすことに注力してきました。これにより、当社は絶えず新たな市場を開拓・参入し続けることができました。現在、当社の事業はエラストマーや合成樹脂、デジタルソリューションから、最近ではライフサイエンスまで多岐にわたります。

設立
1957年(昭和32年)12月10日
所在地
東京都港区東新橋一丁目9番2号汐留住友ビル22F
ホームページ
https://www.jsr.co.jp/
  • 本記事は2020年10月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。

  • SAFe®(Scaled Agile Framework®)は、米国Scaled Agile, Inc.の米国およびその他の国における登録商標です。

  • 記載されている会社名およびサービス名は、各社の商標または登録商標です。

  • TDCソフトは、Scaled Agile, Inc. のパートナー制度 Scaled Agile Partner Program の Scaled Agile Gold Transformation Partnerです。

お問い合わせ

関連情報