リコーのSAP刷新を支えたデータ活用基盤
TDCソフトが挑んだ「止めない」連携再構築

リコーは、全社基幹システムをOracle EBSからSAPへ刷新する大規模プロジェクトを進めた。これに伴い、経理部門が日々の業務や分析に利用する財務会計領域のデータ活用基盤についても、業務を止めることなく移行・再構築する必要があった。しかし、上流のSAP導入と下流のデータ活用基盤の移行・再構築が同時並行で進む中、SAP側の設計変更や従来システムとSAPのデータ構造・処理思想の違いが、連携設計を複雑にした。TDCソフトは、データ連携技術に加え、ERPおよび会計業務の知見を持つ専門人材を結集。関係者との調整を重ねながら、「顧客のビジネスを止めない」という絶対条件を死守し、ERP刷新と連動するデータ活用基盤の移行・再構築を支援した。リコーとTDCソフトは、課題をどのように整理し、解決策を実装したのか。その取り組みと、刷新後に見据えるデータ活用の展望を聞いた。

導入背景

■Oracle EBSの複雑化を解消し、Fit to Standardへ転換
オフィスソリューションをはじめ、幅広いデジタルサービスをグローバルに展開するリコーでは、事業環境の変化に柔軟に対応できる経営基盤の整備が課題となっていた。長年利用してきたERPシステム「Oracle E-Business Suite(以下、Oracle EBS)」には、個別最適化したアドオンやカスタマイズが積み重なり、システム内部のブラックボックス化が進行。業務変更や法改正への対応に加え、迅速な意思決定に必要なデータ抽出にも多くの時間とコストを要し、経営変革を進める上での制約となっていた。

リコーは、事業環境や制度の変化に迅速に対応できる業務・IT基盤の実現を目指し、業務プロセスをパッケージ標準に合わせる、「Fit to Standard」の方針のもと、ERPをOracle EBSからSAPへ刷新することを決めた。これに伴い、経理部門が日々の業務や分析に利用する財務会計領域のデータ活用基盤についても、新たなERP環境に対応した移行・再構築が必要となったのである。

リコー DX本部 コーポレートITセンター
ERP展開推進室 経理業務改革グループ 荒居初雄氏

■経理業務を止めずに進めるデータ活用基盤の刷新
ERP刷新に伴い、重要なテーマとして浮上したのが、既存のデータ活用基盤をどう移行・再構築するかであった。経理部門のユーザーは日常業務でBIツール(Cognos ReportNet等)を活用し、定型レポートの出力、自由検索、マスターデータの参照などを行っていた。これらのデータは、実績分析や経営層へのレポーティング、各種施策の立案に用いられており、ERP刷新という大掛かりな変革期であっても、データ活用業務を一時的にでも停止することは許されなかった。

リコー DX本部 コーポレートITセンター ERP展開推進室 経理業務改革グループの荒居初雄氏は、「経理データを用いた分析やレポーティングは、日々の業務に直結しています。新ERPへ移行した後も、現場がこれまでと変わらないデータ活用環境を維持し続けることが必須条件でした」と語った。

リコーはシステム全体のモダナイゼーションを進める観点から、既存のデータ活用資産であるDWHなどの運用を維持しながら、データ連携基盤を新ERP環境に対応した構成へ刷新する方針を定めた。その一環として、データ連携基盤をInformatica PowerCenterからクラウドサービス「Informatica Intelligent Cloud Services(IICS)」へ移行することとなった。

導入ソリューション

■限られた期間で実現したデータ連携基盤の再構築
大規模なERP刷新プロジェクトが先行する中、データ活用基盤の移行・再構築は、限られた期間で進める必要があった。リコーはパートナー選定に当たり複数のITベンダーから提案を受けたが、要件をゼロベースで再定義する長期的なスケジュール案では、ERPの本番稼働に間に合わないリスクがあった。

TDCソフト ソリューション事業本部
ソリューション企画・営業部 部長
ディレクター 中村信寿

こうした条件の下で、リコーがパートナーとして選定したのがTDCソフトである。TDCソフトは既存の連携資産を最大限に生かし、限られた期間と制約の中で、業務継続性を担保しながらデータ連携基盤を再設計・移行する、極めて現実的かつ実現性の高い方針を提示した。

荒居氏は、「他社が長期化する提案をする中で、TDCソフトは我々のプロジェクトの逼迫した状況や制約を深く理解し、現実的な進め方とスケジュールを提案してくれました。当時の状況において最もフィットする提案でした」と振り返る。

TDCソフト ソリューション事業本部 ソリューション企画・営業部 部長 ディレクターの中村信寿は、「リコーが目指す業務継続性を最優先に考え、既存の資産と運用を尊重しつつ、新たなERP環境と連動するデータ活用基盤へ移行する方式を設計しました。お客さまのビジネスを止めないための『現実解』を提示することが、私たちの使命でした」と語った。

■SAPと周辺システムをつなぐデータ連携の再構築
TDCソフトが担当したのは、SAPと、既存DWH、予算管理システム、連結業績管理システムなどをつなぐインターフェース要件の整理、データ連携方式の再設計、データマッピング、そして開発・テスト・移行支援である。

既存のETLツールで実装していたデータ連携ロジックを継承・再設計し、SAPから抽出するデータを既存DWHへ適切に格納するための連携構造を整えた。しかし、これは単なるツールの置き換えにとどまらなかった。Oracle EBSとSAPでは、コード体系やデータ構造に加え、金額や取引データの保持形式にも大きな違いがあり、連携方式を根本から設計し直す必要があったのである。
加えて、上流に位置するSAP側では仕様策定と業務プロセスの構築が段階的に進められていた。下流を担うTDCソフトのデータ連携チームは、確定しきらない仕様を前提としつつも、アジャイルに変更や追加に対応しながら、設計・開発を並行して推し進めた。

■プロジェクトを成功に導いたTDCソフトのプロジェクトマネジメントと伴走力
机上の想定通りにはいかない困難な状況下で、TDCソフトはプロジェクトの進捗状況と残課題を客観的に分析し、リコーへ率直な情報共有と提言を行った。全機能を一斉にリリースする場合の業務混乱リスクを的確に見極め、主要機能を優先して稼働させた上で、一部の周辺領域を段階的にリリースする方針を提案したのである。

荒居氏は、「TDCソフトの最も評価すべき点は、できないことを曖昧にせず、はっきりと伝えてくれたことです」と高く評価する。「耳あたりの良い言葉で『できます』と言われ、本番直前で行き詰まることこそが最大のプロジェクトリスクになります。特に助かったのは、進捗や課題の度合いを感覚論ではなく、残件数や工数といった具体的な『数値』として可視化し、リスクの全体像を明確に示してくれた点です。定量的かつ客観的なデータで段階的なリリースの選択肢を提示してくれたおかげで、経営層へ迅速にエスカレーションを行い、必要な意思決定を得られました。その結果、業務を止めることなく安全にシステムを立ち上げられたのです」

TDCソフト ソリューション事業本部
エンタープライズソリューション統括部
統括部長 マネージングエキスパート 太田基宜

■会計・ERPの専門知見を加えた「ハイブリッド人材」による支援体制の強化
プロジェクトを前進させた最大の要因が、TDCソフトによる支援体制の強化である。当初はデータ連携技術に特化したエンジニアを中心に進められていたが、データの「技術的な正しさ」と、現場が求める「業務的な正しさ」の乖離を解消するには、SAPと会計業務に対する深い理解が不可欠であることが明らかになった。

そこでTDCソフトは即座に体制を見直し、SAPのデータ構造や会計業務に精通した専門人材をプロジェクトに加えた。TDCソフトでは、SAP、Oracle、データ連携に関する専門人材が同一部門に所属しており、この強みを生かして旧環境(Oracle EBS)と新環境(SAP)の双方に精通したハイブリッド人材を配置した。

TDCソフト ソリューション事業本部 エンタープライズソリューション統括部 統括部長 マネージングエキスパートの太田基宜は、「技術的な接続性だけでなく、業務上のデータが持つ意味を正確に理解していなければ真の整合性は保てません。当社が培ってきたSAPおよびOracle EBS双方の知見と会計業務のノウハウを融合させることで、業務とシステムの橋渡しを担いました」と説明する。

TDCソフト ソリューション事業本部
エンタープライズソリューション統括部 ERPソリューション部
チーフエキスパート 千賀政博

さらに、TDCソフト ソリューション事業本部 エンタープライズソリューション統括部 ERPソリューション部 チーフエキスパートの千賀政博は、「上流の仕様変更や複雑なデータマッピングに対し、現場の業務視点に立って粘り強くロジックを再構築しました。リコーの関係部門と密に連携しながら、手探りの状況で生じる課題を一つひとつ確実に解決していきました」と振り返る。

こうしてリコーは、日常の経理業務や経営レポーティングへの影響を抑えながら、刷新後のデータ活用基盤への移行を実現した。

今後の展望

■事実データに基づく高度な意思決定基盤の実現へ
今回刷新・再構築したデータ活用基盤は、リコーが経理データを継続的に活用し、データドリブン経営を進める土台となった。同社は今後この仕組みを足がかりに、データマネジメントの高度化やグループ全体での活用、AIを用いた分析との連携を視野に入れる。

荒居氏は、「今回の取り組みにより、経理データを将来にわたって多面的に活用していくための強固なベースが完成しました。今後は、財務会計データ(結果指標)の分析にとどまらず、オペレーション領域の先行指標と結びつけ、AIなどのテクノロジーも取り入れながら将来の業績改善へつながる指標へと進化させていきたいと考えています。勘や経験だけに頼らず、事実データに基づいて迅速に意思決定を行うためには、業務とテクノロジーの双方を深く理解し、伴走してくれるパートナーの存在が不可欠です。TDCソフトには引き続き、専門性を生かした支援を期待しています」と語った。

■ERPとデータ活用を横断する独立系SIerの支援力
TDCソフトは、本プロジェクトを通じて、大規模なERP刷新とデータ活用基盤の移行・再構築を並行して進める実践的な知見を蓄積した。特定のベンダーや製品に依存しない独立系SIerとして、Oracle、SAP、データ連携の専門人材を同一部門に擁する強みを生かし、技術と業務の両面から支援を提供していく考えだ。

中村は、「今回のプロジェクトは、上流の業務・ERPと下流のデータ活用をつなぐ当社の総合力が発揮された事例となりました。今後もリコーのデータ活用の高度化を継続して支援するとともに、同様の課題を抱えるエンタープライズ企業のDX推進に貢献していきたいです」と語った。

ERP刷新とデータ活用基盤の再構築を並行して進めるには、業務要件とデータ構造の双方を理解し、変化する条件に対応する力が求められる。TDCソフトは今回得た知見とノウハウを生かし、企業のERP刷新とデータ活用の高度化を今後も全力で支援していく。

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