UX改善を加速させるカスタマージャーニーマップの作り方|5ステップの作成手順とUIデザインへの活用法

「サイトの離脱率が下がらない」「アプリの改善をしたいが、どこから手をつければいいかわからない」 Webサイトやアプリの運用担当者として、こうした悩みを抱えていませんか?

ボタンの色を変えたり、バナーを大きくしたりといった部分的な修正を繰り返しても成果が出ない場合、不足しているのは、ユーザーの体験を点ではなく線で捉える視点かもしれません。

その視点を提供し、具体的な改善策へと導いてくれる強力なツールがカスタマージャーニーマップです。

本記事では、UX改善に直結するカスタマージャーニーマップを5ステップで作る方法を、初心者にもわかりやすく解説します。あわせて、チームの共通認識を作る運用のコツや、実際のUIデザインへの落とし込み方まで網羅しているので、ぜひ最後までご覧ください。

 

 

UXにおけるカスタマージャーニーマップの定義と役割

カスタマージャーニーマップは、単なる顧客の行動表ではありません。UX(ユーザーエクスペリエンス)を改善し、ビジネスの成果につなげるための戦略的なツールです。

まずはその定義と、UXデザインにおける立ち位置を正しく理解しましょう。

カスタマージャーニーマップとは:顧客体験を可視化する「地図」

カスタマージャーニーマップとは、ユーザーが特定の目的(商品の購入、サービスの利用など)を達成するまでのプロセスを、時系列に沿って「行動」「思考」「感情」の切り口で可視化したものです。

サービスに触れる前・中・後の一連の流れを旅(ジャーニー)に見立てて一枚の図にまとめることで、ユーザーが今どこにいて何を感じているのかを一目で把握できます。

いわば、顧客体験の迷子にならないための地図の役割を果たします。

UXデザインのプロセス(人間中心設計)における位置づけ

UXデザインは、徹底的にユーザーの視点に立ってプロダクトを設計する人間中心設計(HCD)の考え方に基づいています。

このプロセスにおいて、カスタマージャーニーマップは、ユーザー理解と課題定義のフェーズで不可欠な役割を担います。

バラバラに存在するリサーチ結果やデータをマップに集約することで体験の全体像が浮かび上がり、ユーザーの期待とサービスの提供価値のズレを防ぎます。

UX改善向けジャーニーと一般的なマーケティング向けジャーニーの違い

両者の最大の違いは、ジャーニーの「終着点」をどこに置くかです。

  • マーケティング向け:主に「認知 → 興味 → 検討 → 購入」という購買プロセスに重きを置き、コンバージョン効率に焦点を当てます。

  • UX改善向け:購入後も含めた「利用プロセス」を重視します。ユーザーがサービスをどう操作し、どんな価値を感じ、使い続けてくれるかという体験の質を深掘りします。

UX改善においては、「ボタンが押しにくい」「説明文が理解できない」といった些細なストレス(フリクション)が離脱の決定打になるため、より解像度の高い行動分析が求められます。

混同しやすい関連フレームワーク(エクスペリエンスマップ・サービスブループリント)との使い分け

ジャーニーマップと似た手法に、エクスペリエンスマップやサービスブループリントがあります。これらを適切に使い分けることで、より立体的な分析が可能です。

  • エクスペリエンスマップ:特定の製品やブランドに限定せず、ユーザーの生活全般における広い体験を描きます。抽象度の高い段階で使われます。

  • サービスブループリント:ユーザーの行動だけでなく、企業の裏側の動き(スタッフの対応、システムの挙動)も併記します。組織のオペレーション改善に適しています。

UX初心者であれば、まずは特定のサービスに焦点を当てた「カスタマージャーニーマップ」の習得から始めるのが最も実戦的です。

なぜUX改善にカスタマージャーニーマップが必要なのか

Webサイトやアプリの改善に取り組む際、カスタマージャーニーマップは強力な武器になります。

UX改善を進める上で欠かせない4つのメリットを、それぞれ詳しく見ていきましょう。

ユーザーの行動・思考・感情を時系列で一気通貫に把握できる

数値データだけでは見えてこないのが「なぜその行動をとったのか」という心理的背景です。カスタマージャーニーマップは、行動の裏にあるユーザーの感情の揺れ動きを可視化します。

例えば、「決済画面で離脱した」という事実に対し、「クレジットカード情報の入力に不安を感じた(感情)」「手数料がいつ表示されるかわからず不審に思った(思考)」といった心理的文脈を捉えることで、心理的障壁を取り除くための本質的なアプローチが可能です。

離脱ポイント(フリクション)を特定し、改善の優先順位を明確にする

感情曲線を描くと、ユーザーの体験が著しく損なわれている真のボトルネックが浮かび上がります。

「このステップでの感情の落ち込みが最も激しい」という視覚的な根拠があれば、どの改善から優先的に着手すべきかという合意が論理的に得やすくなります。

チームやステークホルダー間での「共通認識」と「合意形成」を促進する

ジャーニーマップを囲んで議論することで、「今、私たちが議論しているのは、このフェーズで困っているこのユーザーのことだ」という共通認識が形成されます。

個人の意見を戦わせるのではなく、ユーザーの旅をどう良くするかという建設的な視点に切り替えられます。

表面的なUI改善ではなく、根本的な理想の体験(To-Be)を設計できる

カスタマージャーニーマップは、「そもそもこのステップは不要なのではないか?」「ここで通知を送ればユーザーの不安を解消できるのではないか?」といった、サービス全体の構造に関わるアイデアを生むきっかけになります。

理想の体験を描くことで、競合他社に差をつけるイノベーションのヒントが得られます。

【事前準備】マップの精度を高めるユーザーリサーチとペルソナ設定

マップの作成に入る前に、ユーザーリサーチとペルソナの設定を行いましょう。この事前準備の質が、マップ全体の精度を左右します。

ここでは、押さえておくべき3つのポイントを解説します。

精度の高いマップの土台となる「ペルソナ」の再定義

カスタマージャーニーマップの主役はユーザーです。デモグラフィック属性だけでなく、その人が抱えている悩み(ペイン)、解決したい課題(ニーズ)、普段のIT活用能力などを定義したペルソナを用意しましょう。

自社サービスをどのような文脈で利用し始めるかという動機を具体化することが、精度の高いマップ作成の第一歩です。

思い込みを排除する:実データとユーザーインタビュー(定性調査)の重要性

作成メンバーの頭の中だけでマップを埋めるのは、作り手の思い込みだけで作られたマップになってしまいます。それを本物に昇華させるには、一次情報(ユーザーの生の声)が必要です。

  • 定性調査(ユーザーインタビュー):実際にサービスを使っている方にインタビューを行い、自分たちでは想像もつかなかった心理を発見します。

  • 実データの観察:アクセス解析(ヒートマップや離脱率)やユーザーテストで、どこで手が止まっているかを記録します。

これらの事実を積み重ねることで、マップに揺るぎない説得力が生まれます。

リサーチの適切な人数と客観的なデータの集め方

ユーザビリティテストの分野では、ヤコブ・ニールセン博士が「5人のテストで問題の約85%を発見できる」と述べており、ジャーニーマップのリサーチにおいても、まずは5名程度のインタビューから始めることが現実的な出発点とされています。

インタビューや観察を行い、共通の行動パターンや発言を抽出しましょう。

CSに届いているお客様の声のログやSNS上の口コミも、重要な客観的データとして活用できます。

UX改善のためのカスタマージャーニーマップの作り方:5ステップ

事前準備が整ったら、いよいよマップの作成に入ります。

ここでは、初心者が迷わずに進められる5つのステップを解説します。

STEP1:カスタマージャーニーマップの目的(ゴール)の設定と対象範囲(スコープ)の決定

まずは「何のためにこのマップを作るのか」を明確にします。

「新規会員登録率を1.5倍にする」といった具体的なビジネスゴールを設定し、ジャーニーの始まりと終わりを決めましょう。

範囲を広げすぎると分析が浅くなるため、特定の課題に絞ったスコープ(範囲)を設定するのが成功のコツです。

STEP2:横軸(カスタマーステージ)と縦軸(評価項目)の設計

マップの骨組みを作ります。

  • 横軸(ステージ):ユーザーのプロセスを区切ります(例:認知、興味・比較、検討、行動、継続など)。

  • 縦軸(項目):行動・接点(タッチポイント)・思考・感情の4つが基本です。

UX改善を目的とする場合は、課題・不満点や改善アイデアの行を追加するとその後の作業がスムーズです。

STEP3:ユーザー行動・タッチポイント・思考・感情のマッピング

用意したペルソナになりきって、各ステージでの動きを埋めていきます。事前準備で集めたリサーチ結果やインタビューの生の声をベースにすることが重要です。

作り手の想像だけで埋めないよう注意しましょう。

STEP4:感情曲線から「負の体験(ペインポイント)」を抽出する

各行動に紐づくユーザーの感情をポジティブ(+)からネガティブ(ー)の曲線で描きます。

曲線が大きく沈み込んでいる箇所が、ユーザーがストレスを感じ離脱を検討しているペインポイントです。これを具体的に特定することが次のステップの起点です。

STEP5:課題に対する解決策のアイデア出しと優先度付け

抽出されたペインポイントに対し、解決策のアイデアを出し合います。

ユーザー体験への影響度と実装の実現可能性(コスト・工数)の2軸でマッピングし、優先順位をつけましょう。

最も感情が沈んでいる箇所の改善が、UX向上への最短距離です。

実践的な運用:As-Is(現状)からTo-Be(理想)への落とし込み

カスタマージャーニーマップは、現状の分析だけで終わらせてはいけません。分析をどう改善につなげるかが重要なポイントです。

現状の課題を浮き彫りにするAs-Is(現状)マップの分析方法

これまでの手順で作るのがAs-Is(アズ・イズ)マップです。

分析の際は、「なぜここでユーザーはつまずいているのか?」という因果関係を深掘りします。エラーメッセージの不備や情報の不足など、数値データの背後にある理由を言語化し、関係者全員で共有しましょう。

課題解決後の理想の姿を描くTo-Be(理想)マップの描き方

課題が明確になったらTo-Be(トゥー・ビー)マップを描きます。

課題が解決された後の理想的なユーザー体験を可視化することで、単なるバグ修正ではない新しい機能やサービス体験のアイデアが生まれます。

As-Isと比較することで改善前後のインパクトを可視化でき、上司への提案資料としても強力なエビデンスです。

ジャーニーマップから具体的な機能要件やUIデザインにブリッジさせる手法

マップ上の理想の体験を具体的な画面(UI)に落とし込みます。

例えば、決済への不安が課題なら、UIデザインでは「セキュリティバッジの表示」や「キャンセル可能であることの明示」といった要素に変換します。

ジャーニーマップ(感情・行動)とワイヤーフレーム(画面構成)を紐づけることで、デザイナーやエンジニアに「なぜこのデザインが必要なのか」を論理的に説明できるようになります。

失敗を防ぎ、現場で「機能する」マップにするためのポイント

せっかく作ったマップが「作って満足」で終わってしまうのを防ぐための、運用のコツを解説します。

カスタマージャーニーマップを現場で機能させるには、作り方と同じくらい運用の仕方が重要です。

ここでは、実務でよくある失敗パターンを踏まえた3つのポイントをご紹介します。

完成度(見た目)にこだわりすぎず「議論のツール」として活用する

プロのデザインツールできれいに作り込む必要はありません。

最初は付箋やホワイトボードツールでラフに作り、改善案が出るたびに書き換えていく。カスタマージャーニーマップは完成品ではなく、改善のための対話のツールです。

エンジニア・営業・CSなど多職種を巻き込んだワークショップ形式で行う

Web担当者だけで作るのではなく、営業やCS、エンジニアを巻き込んだワークショップ形式で作成しましょう。

多角的な視点が入ることでマップの精度が高まるとともに、メンバー全員が「自分たちが直すべき課題」として当事者意識を持つことができ、プロジェクトの推進力が格段に上がります。

定期的に見直しを行い、プロダクトの成長に合わせて「生きている地図」にする

ユーザーの行動や市場環境は常に変化します。

新機能追加時やユーザー層が変わった際にはマップを更新し、プロダクトの成長に合わせて進化させ続ける「生きている地図」として運用することが、長期的なUX向上への近道です。

カスタマージャーニーマップ作成に役立つツールとテンプレート

効率的に、かつチームで共有しやすい作成ツールを3つ厳選して紹介します。

Miro:チームでのオンライン共同編集・ワークショップに最適

世界中で利用されているオンラインホワイトボードツールです。豊富なテンプレートがあり、リモート環境でもリアルタイムで付箋を貼りながらワークショップを行えます。直感的な操作性で、エンジニアや非デザイナーのメンバーも参加しやすいのが最大の特徴です。

Lucidchart:緻密な図解・フローチャート作成に強いツール

より論理的で構造的なマップを作りたい場合に適しています。

データの連携機能や、詳細なフロー図との紐づけが得意なため、大規模なシステムのジャーニーマップや、複雑な条件分岐があるBtoBサービスの設計に向いています。

15VISION:実務ですぐに使える実践的な日本語テンプレート

UXデザイン支援を手がける「15VISION」が提供している、ExcelやGoogleスプレッドシート形式のテンプレートです。

デジタルツールを使いこなす前に、まずは使い慣れた表計算ソフトで整理したい初心者におすすめです。項目の整理が非常に秀逸で、初心者でも埋めていくだけで論理的なマップが完成します。

TDCソフトのUXデザイン支援サービス

「カスタマージャーニーマップの重要性は理解したが、自社だけでリサーチからUI改善まで完結させるリソースがない」とお悩みの企業様も多いでしょう。

TDCソフトでは、新規サービスの企画支援から既存サービスのカイゼン支援、内製化支援、UI/UXデザイン作業支援まで、お客様のフェーズに合わせたUXデザイン支援サービスをワンストップで提供しています。

  • 新規サービス企画支援:ユーザーリサーチやペルソナ設計など、事実に基づいたユーザー像の導き出しから企画立案までを支援します。

  • 既存サービスカイゼン支援:カスタマージャーニーワークショップのファシリテーションを通じて、多職種を巻き込んだ合意形成と課題の優先順位付けを支援します。

  • UI/UXデザイン作業支援:マップで得た知見を、具体的な機能要件や使い勝手の良いUIへと昇華させます。

「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、ぜひお気軽にご相談ください。専門のUXデザイナーが、貴社チームの一員として伴走いたします。

まとめ:UX改善の第一歩としてカスタマージャーニーマップを活用しよう

カスタマージャーニーマップは、単なるフレームワークではなく、ユーザーに寄り添い、本質的な価値を提供するための姿勢そのものです。

「サイトの離脱率が高い」という表面的な事象の裏には、必ずユーザーの不安や不満、あるいは期待の裏切りが隠れています。

それらを一つひとつ可視化し、チーム全員で「どうすれば最高の体験を作れるか」を議論するための土台として、本記事で紹介した5ステップをぜひ実践してみてください。

カスタマージャーニーマップを通じて得られた深い洞察は、あなたの改善提案に圧倒的な説得力を持たせ、結果としてユーザーに愛されるプロダクトへとつながるはずです。

「自社だけでリサーチからUI改善まで進めるのが難しい」とお感じの場合は、TDCソフトのUXデザイン支援サービスへのご相談もぜひご検討ください。

豊富なプロダクト開発実績を持つ専門のUXデザイナーが、貴社チームの一員として伴走いたします。 まずは身近な改善項目から、付箋を一枚貼ることから始めてみませんか。

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