三井物産流通グループ株式会社様
プロジェクトの目的はシステム構築ではなく次世代の人材育成
開発コストを1/4に圧縮し、組織のDNAを書き換えた基幹システムの刷新プロジェクト支援 ~三井物産流通グループ、SaaS活用と内製化による「Smartな組織」への変革~
三井物産流通グループ(以下:MRG社)では、大規模なデータ活用基盤を軸にした基幹システムの刷新プロジェクトを推進している。既存のフルスクラッチシステムからSaaSを組み合わせた構成への転換を図る中で、同社が目指したのは単なるシステムの置き換えではなく、変化に強い組織への変革だった。この難易度の高いプロジェクトにおいて、同社はパートナーにTDCソフトを選定。MRG社の指示を待つのではなく、まだ顕在化していない課題を先読みし、組織の「あたりまえ」さえも疑ってかかる“先回り型の伴走支援”が、プロジェクトの推進力を大きく高めることになった。スクラムの導入から定着、マルチベンダーコントロールまで、技術支援の枠を超えた組織風土改革のパートナーシップが、コストの適正化や人材の市場価値向上といった成果を生み出している。
導入の背景と課題
■変化に即応できない「作業最適化」されたシステムからの脱却
MRG社は、食品や日用品などの広範なサプライチェーンを支える中間流通機能を担っている。同社では従来、受発注から入出庫在庫管理さらには需要予測に至る一連の業務を管理するフルスクラッチ開発の基幹システム「SiRIUS」を運用してきたが、このシステムが償却期間終了を迎えていた。新たな基幹システムは、コロナ禍における社会情勢の激変や、頻繁な法制度・規制の改正に柔軟に対応でき、将来的なビジネス変革にも迅速かつ柔軟に対応するためのデータ基盤を備える必要性があった。また一方で、ある課題が浮き彫りになっていた。それは、システムが「あたりまえ」になりすぎたことによる組織の硬直化だ。
MRG社でSiRIUSの刷新プロジェクトを牽引した担当者は、当時の課題を次のように振り返る。「既存のシステムはウォーターフォール型で開発されており、良くも悪くも個別の業務プロセス単位で機能設計が為されていました。社員はシステムに合わせて作業をこなすことに終始し、『なぜその作業が必要なのか』『どのような価値を生んでいるのか』という全体像が見えなくなっていたのです」。
システムが業務を支配し、社員が受動的な「作業者」になってしまう。この状況を打破し、変化に強い組織へと生まれ変わるため、同社は拡張性の高いデータ活用基盤を活用した新たなシステムの構築を決断する。目指したのは、変化に強いSaaSベースの組み合わせによる柔軟なアーキテクチャへの転換、そして社員自らが要件を定義し開発に関与する「内製化」と「アジャイル開発」の導入だった。
具体的には、データウェアハウスとして「Snowflake」を採用し、そこに全てのデータを集約。UIやロジックは個別の商流に合わせて柔軟に構築するという構想を描いた。しかし、これまでフルスクラッチのシステムの運用に慣れ親しんだ組織にとって、これを実現するためのアジャイル開発や内製化は未知の領域であり、強力な支援が必要だった。
TDCソフトが選ばれた理由
■「御用聞き」ではない。求めたのはゴールを共有して自走する姿勢
プロジェクトの立ち上げにあたり、MRG社は当初、既存システムのベンダーに相談を持ちかけた。しかし、アジャイル開発とSaaSの組み合わせという新しいアプローチに対しては、有効な提案を得られなかった。そこで、アジャイル開発の経験と知見を持ち、新たな挑戦に力強く支援できるパートナーとして紹介されたのがTDCソフトだった。
選定の決め手となったのは、単なる開発リソースの提供ではなく、スクラムマスターやプロダクトオーナー支援といった、プロジェクトの推進役を担える高度なスキルセットを持っていた点だ。
MRG社の担当者は、「我々が求めていたのは、システム開発者としての支援ではなく、アジャイルプロセス全体としてのプロジェクト支援でした。特に、初めて組成するスクラムチームの運営において、我々が『何をすべきか』を理解し、主体的に動いてくれるパートナーが必要でした。なので、実際のプロジェクトでは、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)機能にとどまらず、TDCソフトが部門横断で必要な人材を適切なポジションに配置し、チームの一員として支援してくれた点も大きかったと感じています」と語る。
TDCソフト、コンサルティング本部コンサルティングサービス部の下川修治は、単にあるべき論を語るだけでなく、現場に入り込み、実務を通じてチームを牽引する姿勢が評価された。下川は、顧客からの指示を待つのではなく、プロジェクトのゴールを共有し、その達成に必要なアクションを自律的に提案・実行するスタイルを貫いた。この「自ら考え、動く」姿勢こそが、未経験のアジャイル開発に挑むMRG社にとって不可欠な要素だった。
TDCソフトの提案とソリューション
■スクラムの形骸化を防ぎ「価値」に向き合う意識変革を支援
本プロジェクトにおけるTDCソフトの支援は、コンサルティング本部によるPMO支援だけに限定されたものではない。デジタルテクノロジー本部からは、アジャイルに精通したメンバーがスクラムマスター支援として参画し、またCX・UXに強みを持つ人材がプロダクトオーナー支援として市民開発のスクラムチームに入り込んだ。さらにソリューション本部からは、セキュリティや基盤領域のスペシャリストが、非機能要件を担うMRG社IT部門メンバーで構成されたチームに参画し、専門性の高い領域を支援した。
プロジェクトは、Snowflakeを中心としたデータ基盤への移行と、それに基づく業務アプリケーションのアジャイル開発という二段構えでスタートした。しかし、初期段階では多くの困難に直面した。
「最初の1年は、既存データをSnowflakeに移し替える作業に追われ、アジャイル開発のサイクルが全く回りませんでした。2週間に1回のデモを行うというスクラムのルールはありましたが、実際には何も動くものができず、会議が言い訳の場になっていたのです」とMRG社の担当者は明かす。
この状況に対し、下川はPMOおよびスクラムコーチの立場から、徹底的な意識改革の支援を行った。単にスクラムのイベント(会議体)をこなすのではなく、「何のためにやっているのか」「どのような価値を提供するのか」という本質的な問いかけを繰り返したのだ。
特に注力したのが、コミュニケーション不全の解消だ。縦割り組織の弊害により、同じスクラムチーム内であっても、プロダクトオーナーと開発メンバーといったロールの違いから対話が減り、課題や判断が先送りになる場面が少なくなかった。この課題に対し、TDCソフトは「SAFe(Scaled Agile Framework)」の枠組みを活用し、部門やロールを越えて計画や成果を共有する場を設計。個々に話すよう促すのではなく、「対話が自然に生まれる」プロジェクト運営を行った。結果として本プロジェクトは、システムやプロセスに加え、他部門との人脈や関係性を参画メンバーに残すことにもつながった。
■スクラムが機能し始めバリューストリームを意識した開発体制へと徐々にシフト
また、TDCソフトはSAFeの知見を活用し、組織全体へのアジャイル展開をサポートした。MRG社の担当者もSAFeの概念を再確認し、それをプロジェクトの指針として取り入れた。これにより個別の開発作業だけでなく、ビジネス全体の価値(バリューストリーム)を意識した開発体制へと徐々にシフトしていったのだ。
■マルチベンダーコントロールによる「ハブ」機能
同プロジェクトは、Snowflakeの導入支援を行うベンダーや、SaaS製品(Dynamics 365など)の導入ベンダーなど、複数の企業が関わるマルチベンダー体制で進行した。ここでも下川を中心としたTDCソフトの支援体制は重要な役割を果たした。
下川はMRG社と一体になり、他のベンダーとの調整やコントロールを積極的に行った。専門的な技術課題や進捗の遅れに対し、顧客に代わってベンダーと直接対話し、解決策を模索した。「私がお願いしなくても、下川さんが他社ベンダーに『ここは良くない』『どうなっているのか』と踏み込んで確認してくれました。これは非常に助かりました」と、MRG社の担当者は下川の対応を高く評価した。
特に、アジャイル開発に不慣れなベンダーに対しても、TDCソフトがその手法や考え方を共有し、プロジェクト全体のリズムを整える役割を果たした。これにより、異なる文化を持つベンダー同士が協調し、一つのゴールに向かって進む体制が構築された。
導入後の成果
■コストは想定の4分の1 そして「人が変わった」
約2年半にわたるプロジェクトを経て、MRG社は大きな成果を手にしている。まず定量的な成果として、開発コストの適正化が挙げられる。担当者の試算によれば、従来の完全委託型フルスクラッチ開発と比較して、SaaSの組み合わせとアジャイル開発による構築コストは、約4分の1に抑えられた。アジャイル開発は要望が膨らみコストが増加する懸念もあったが、内製チームとTDCソフトが連携し、本当に必要な機能を見極め、ドキュメント作成コストなどを極小化したことが奏功した。
それ以上に大きな成果としてMRG社の担当者が強調するのが、「人の変化」である。「2年半やってきて、人材の市場価値が数倍になったメンバーもいます。システムに動かされる作業者ではなく、システムを通じて価値を具現化する人材になったのです」と語った。
かつてはシステムの仕様や業務の意味を理解せずに作業を行っていた業務部門の社員たちは、今では自らデータを分析し、業務プロセスの改善案を出し、システムに反映させる「市民開発者」へと成長した。一方でIT部門においても、従来のベンダー依存から脱却し、業務内容やシステム全体を理解した上で主体的に判断・対応できる体制へと変化している。障害発生時には、業務部門とIT部門が連携しながら影響範囲を見極め、対応方針を自ら判断できるようになった。
MRG社担当者は「やりたかったのはシステムの入れ替えではなく、人と組織を変えることでした」と語る。受動的な組織から、自律的に価値を創造する組織へ。TDCソフトの伴走支援は、単に隣で支えるものではなく、一歩先を見据えて組織とプロジェクトを導く支援であり、システム構築の枠を超え、組織のDNAそのものを変革することにも貢献した。
今後の展望
■プロジェクトから「日常」へ。アジャイルな文化の定着
基幹システムの構築プロジェクトとしては一区切りつくものの、MRG社の変革は終わらない。今後は、プロジェクトという特別な枠組みではなく、日常業務の中でアジャイルな改善サイクルを回し続けることが課題となる。
MRG社担当者は「スクラムという形式が残るかどうかは別として、自分たちで考え、作り、改善するというプロセスは残すべきです。そのためには、現場だけでなく、上位管理職層の意識変革も必要になります」と指摘する。現場が自律的に動くアジャイルな働き方を、組織としてどう評価し、駆動させていくか。新たなフェーズにおける組織運営のあり方が問われている。
TDCソフトに対しては、引き続きこの変革の定着を支援する役割が期待されている。単なる技術提供にとどまらず、顧客のビジネス価値最大化にコミットし主体的に関与するパートナーとして、TDCソフトは今後もMRG社の挑戦を支え続けていく。
コンサルティング本部
コンサルティングサービス部
下川 修治