この記事の内容
復旧時間の悪化、残業の増加、障害対応の属人化──老朽化システムと複雑化した運用現場では、日常的な負荷が年々積み重なり、年間数千万円規模の機会損失になるケースも珍しくありません。
その裏に潜む本当の原因が“ナレッジ停滞”です。ナレッジが動かない組織では、改善が進まず、運用は必ず疲弊します。本稿では、その構造と解決策を ServiceNow を軸に整理します。
ナレッジが形骸化すると運用が止まる理由
ナレッジは IT 運用の“基盤”だが最も止まりやすい
ナレッジは、インシデント解決の知見を蓄積し、次回発生時に“すぐ使える答え”として活かすための基盤です。
本来であれば、検索すれば解決策に到達でき、対応品質の均一化や MTTR 短縮が進むはずです。しかし現実は、作られず・更新されず・使われないまま静止し、“存在だけしている仕組み”に変わってしまっています。
なぜナレッジは止まるのか?管理層が見落としやすい真因
インシデント対応が優先され、更新が後回しになる
現場のオペレーションは常に“火消し”の連続です。朝一番から障害対応が入り、ユーザーからの問い合わせが途切れず、担当者は次々とタスクに追われていきます。
その中で「解決した内容をナレッジ化する」という作業は、どうしても後回しのリストのさらに後ろへ追いやられがちです。
本来、トラブル対応直後が最も正確に内容を書けるタイミングですが、別の案件が入るたびに記録すべきポイントは薄れ、「今日は無理」「時間があるときに」と先送りされます。しかし、その“時間があるとき”はほぼ永遠に来ません。これが、ナレッジ作成の停滞を慢性化させる最大の要因です。
古い情報が残り、利用者の信頼が失われる
ナレッジが更新されない状態が続くと、検索結果には“数年前の情報”や“現在のシステムでは通用しない手順”が並び始めます。
すると利用者は、数回の検索失敗だけで「ナレッジは時代遅れ」「探しても意味がない」という印象を強く持ちます。
さらに悪いことに、一度信頼を失ったナレッジは、改善しても“使われない仕組み”に戻すのが難しい特徴があります。
利用者がナレッジを避けるようになると、問い合わせが増え、さらに現場の時間が奪われ、ますます更新が滞る──という負のサイクルが静かに進行します。管理層からは見えにくいですが、信頼低下は最も“深く長く残る損失”なのです。
属人化した暗黙知がナレッジ化されないまま残る
多くの現場では「詳しい人に聞く方が早い」という文化が長年続いています。その結果、熟練者の頭の中にだけ高度なノウハウが蓄積され、組織としては知識が固定化されません。
この暗黙知は、ナレッジとして体系化されなければ引き継がれず、人員が変わった瞬間に“組織の記憶”が途切れます。
属人化が深刻化すると、インシデント対応のスピードは担当者の経験値に左右され、復旧時間(MTTR)のバラつきが顕著になります。
管理層は「人を増やすか、教育時間を増やすか」といった対策に走りがちですが、根本原因は“ナレッジの循環不全”にあります。
ナレッジ作成/更新が業務フローと分離している
ナレッジは“存在しているだけ”では使われません。多くの企業ではナレッジ機能を ServiceNow に用意しているにも関わらず、実際の業務動線から切り離されているため、誰もその存在を意識しなくなります。
たとえば、インシデント解決後にナレッジ登録画面が自動的に開かない、対処フローに“参照すべき場所”が設計されていない、検索結果に関連ナレッジが紐づかない──こうした動線の断絶があると、ナレッジは日々の運用から孤立し、更新も参照もされない“倉庫の奥に眠るファイル”と化します。
UX設計が欠けている環境では、ナレッジ活用は根付かず、システムがどれほど高機能でも成果は出ません。これは、管理層が特に見落としやすい重要ポイントです。
ナレッジ停滞がもたらす“静かな損失”
復旧時間悪化・残業増加・問い合わせ増が連鎖する
ナレッジが回らないと、毎回ゼロから調査が必要になり、復旧時間(MTTR)は確実に伸びます。
さらに問い合わせが増え、一次対応負荷が高まり、担当者の残業が増加。
蓄積する損失は、部長層には見えにくい“無形コスト”として膨らみ続けます。
改善活動が止まり、老朽化システムとの相乗で損失が拡大
古い環境ほど、ナレッジ循環が止まる影響が顕著です。恒久対策の検討も進まず、事故が再発し、運用品質が下がっていきます。
ナレッジが回れば運用は自律的に改善する
“すぐ見つかる・すぐ使える”ナレッジが運用を変える
理想の状態は以下の循環です
• インシデント発生 → 適切なナレッジが即ヒット
• 誰でも一定品質で対応
• 新しい知見がすぐナレッジ化
• 改善が自然に積み上がり、属人化が解消
この循環が動き出せば、運用品質・速度・負荷は同時に改善します。
ServiceNow × UXD × AI が“止まったナレッジ”を動かす
ServiceNow が運用の“軸”を整える
ServiceNow のワークフロー・検索・CMDB・インシデント管理は、ナレッジを使う動線を標準で備えています。使うべき場所でナレッジが必ず参照できる構造が整っています。
AI がナレッジ作成の初動負荷を取り除く
AI は対話ログ・インシデント記録を学習し、ほぼ完成したナレッジ記事を出力できます。担当者は最終確認のみで済み、作成負荷が激減。更新頻度と品質が自然に安定します。
UXD が“使われる仕組み”をデザインする
UXD(ユーザー体験デザイン)は、ナレッジが業務動線に自然に組み込まれるよう設計します。
• 参照しやすい情報構造
• 作成しやすい画面動線
• 検索キーワード最適化
これらが“使われる文化”をつくります。
ナレッジが循環する“運用の再構築”
運用の再構築のために、 TDCソフトが提供する支援をご紹介いたします。
現場の業務フローに寄り添った UX 設計
ただシステムを導入するのではなく、現場の動線に合わせて“自然に使われるナレッジ”を設計します。
高速ナレッジ生成基盤の構築
運用現場に負担をかけず、毎日新しい知見が蓄積されるような仕組みを整えます。
ServiceNow の標準機能を最大化した運用最適化
ナレッジ、インシデント、CMDBなど、ServiceNow の標準機能を最大限に活かし、運用全体で効果が出る形に統合します。
まとめ:ナレッジが動けば運用は再び“回り始める”
ナレッジはただ蓄積するだけでは価値になりません。
現場で自然に使われ、更新が循環し続けることで初めて運用品質は改善し、問い合わせ削減・復旧時間短縮・属人化解消が進みます。
ServiceNow × UXD × AI の組み合わせは、この循環を最短で取り戻すための強力な手段です。TDCソフトは、現場の業務に寄り添いながら、この“回るナレッジ”を実現します。
FAQ:ナレッジの形骸化
Q1. なぜナレッジはすぐ形骸化してしまうのですか?
更新の手間が大きく、現場が対応に追われる中で後回しになりやすいためです。
Q2. ナレッジが復旧時間に与える影響は?
最新の解決策が使えないとゼロから調査が必要となり、MTTR が長くなります。
Q3. 何から改善を始めるのが効果的ですか?
業務フローにナレッジを自然に組み込み、AI によって初動負荷を減らすことが最も即効性があります。
脚注
[¹]Gartner ITSM Platforms Magic Quadrant 2024
[²]IDC Future of ITSM Automation Report 2024




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